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【マンション開発・販売担当者インタビュー】新築マンションにEV充電設備を導入!設置してわかった反省点と資産価値への影響は?
【マンション開発・販売担当者インタビュー】新築マンションにEV充電設備を導入!設置してわかった反省点と資産価値への影響は?オブリージュ浜松レジデンス(静岡県浜松市中央区)
充電設備の有無は、マンションの資産価値に影響を与える。
目次
「EV充電設備があれば、買い替えの際にEVを検討される方も増えてくる。お客様に選択肢を提示できることは、マンションの強みの一つと考えています」。そう語るのは、分譲マンション事業などを行う『株式会社アスシニア』の新築マンション事業部・部長、杉山勇人さん。
杉山さんが担当する「オブリージュ浜松レジデンス」では、分譲を開始するにあたり、敷地内90区画の駐車場のうち20区画に充電設備を導入。その背景には、マンション購入を検討する顧客からの具体的な要望、そして未来を見据えた資産価値向上への強い意識がありました。
今回は、新築マンションへのEV充電設備導入を初めて担当したという杉山さんと、施工業者の石井さんに、EV充電設備導入の経緯や導入後の展望、次回の設置に向けての反省点や、設置を検討する施設へのアドバイスなどを伺いました。
物件概要
物件種別 | 分譲マンション |
---|---|
総戸数 | 81戸 |
所在地 | 静岡県浜松市中央区 |
築年数 | 新築(竣工2025年1月) |
駐車場 | 施設内平置 92区画 |
充電設備設置区画 | 20区画 |
充電設備種類 | EV充電コンセント(200V/16Aで3kW) |
EV充電用電源 | EV充電用に別引込にて確保(WeChargeにて電気契約) |
未来のニーズを見越して、EV充電設備を導入
「今後自社のマンションでも導入事例を増やしたい」と杉山さん。
─新築マンションにEV充電設備を導入された経緯を教えてください。

きっかけは、物件の見学に来ていただいたお客様からのご要望でした。
「EVを所有しているので充電設備があるマンションを希望している」というお話を複数のお客様から伺い、今後のニーズを見越して充電設備を導入することにしたんです。
そこでまず、管理会社に施工業者の選定を依頼しました。意外だったのは、新築マンションへの施工ができる業者が限られていたことです。最初に問合せた業者は新築には施工できないというお話だったそうで、いくつか問い合わせた中から今回の施工業者にお願いしました。
─導入口数や設置位置、施工方法などはどのように決定したのでしょうか?

施工業者と充電サービス事業者を交えた3者で打ち合わせを繰り返し、設置条件を鑑みてひとつひとつ検討しました。
私自身は充電設備の導入を担当するのは初めてだったので、「何台設置するのがいいか?」「どこに施工したら使いやすいいか?」といった専門的なアドバイスをもらえたのがありがたかったですね。
具体的な例を挙げると、導入口数は施工業者からの「経験上補助金が多く出やすいのは、申請できる上限の20口」というアドバイスを受けて、20口に決めました。
補助金を賢く活用!知っておきたい制度のリアル
92区画中20区画に設置。
─利用した補助金と、導入にかかった費用について教えていただけますか?

経済産業省が実施する「クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金」を活用しました。
全体の工事費が700万円ほどで、それに対して400万円の補助金が下りています。おおむね満足していますが、本音を言うと、もう少し下りてくれたらありがたいですね。

今回の場合は最大で600万円程度申請することができましたが、同じ設置口数の場合、申請額が安い方が採用されやすい傾向にあります。
上限額いっぱいの600万円で申請をしてしまうと補助金が下りないリスクがあるため、われわれの経験上補助金が降りる可能性が高い金額をおすすめしました。
─なるほど。補助金の申請、採択、受領までの流れはいかがでしたか?

申請の手続きは設置業者に代行をお願いできたので、私たちがやるべきことはとくにありませんでした。
ただ、補助金受領までの時間はけっこうかかりましたね。2024年の夏ごろに補助金の申請を行い、そこから受領までは半年ほどかかりました。
─補助金制度を使ってみての率直なご意見や、今後への期待があれば、ぜひお聞かせください。

私たちもそうでしたが、高額の設備に投資を決めるのは大きな決断です。
「補助金が出るのかどうかはっきりと分からない」制度ではなく、「申請額を満額支給するには審査が必要だけれど、最低限これくらいは補助します」という“補助金の最低保証額”のような制度があれば、多くの施設がより安心して設備導入に踏み切れるのではないでしょうか。
仕上がりと利用状況の現状、収益化の可能性は?
従量課金制なので、収益化の柔軟性が高い。
─設置完了後のご感想を聞かせてください。

充電設備というと、もっと大掛かりなものを想像していたのですが、完成したものを見てみたら思ったよりスマートで驚きました。
駐車場の景観にもなじんでいて、社内でも好評です。

今回は、配線を地中に隠す工法だったので、設備の後付け感もなくスタイリッシュに仕上げることができました。
導入を検討されている方は、施設の景観や施主様の予算に合わせて施工業者に施工方法を相談されるのがおすすめです。
─充電設備の現在の利用状況はいかがですか?

はじめに充電設備について問い合わせをいただいたお客様は残念ながら契約されず、今の所EVを所有している方が入居していない状況です。
マンションが分譲開始したばかりというのもあり、これから先のニーズに期待していますね。
また、従量課金制で使った人が使った分だけ支払う仕組みなので、住民以外の方に解放し、収益化することも視野に入れています。誰でも気軽に使えるのは、従量課金制だからこそ。導入して使われなければ終わり、ではなく、運用面での柔軟性が高いのは、大きな利点ですね。
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配線を埋め込み、スッキリとした外観に。
─実際に導入を終えてみて、率直な反省点や、これから導入を検討するマンションへの具体的なアドバイスがあれば、ぜひお聞かせください。

導入台数に関しては、もう少し慎重になってもよかったのかな?と思っています。
特に今回は新築マンションなので、EVを所有している方がどれだけ契約してくれるかという部分が未知数でした。
たとえば、「同じエリアや同じ規模のマンションでどれだけEVが増えているのか?」、「買い替えにEVを検討している人はどれだけいるのか?どれだけ増えそうか?」という観点で具体的なデータを探したり、自社の他のマンションの担当者や、デペロッパーに話を聞いて情報収集したりと、多方面から下調べして、充電設備のニーズを具体的な数で予想しておくと良いと思います。
─今後、マンションでのEV充電設備の導入は、どのように進んでいくと思われますか?

間違いなく、今後ますます増えていくでしょうね。実際、すでに多くのマンションでEV充電設備の導入が始まっています。
もちろん、一気に全区画に設置するのではなく、マンションの規模や駐車場の状況に合わせて、まずは1、2台から導入するケースが増えている印象です。弊社でも、今後は数台から導入するケースが増えると思います。
充電設備があるというのは、入居者にとって大きなメリットです。たとえ今EVを持っていなくても、「次に車を買い換えるならEVにしよう」という選択肢が生まれますからね。これはマンションの資産価値を高めるうえでも、非常に重要な要素になると感じています。
─杉山さん、石井さん、ありがとうございました。