EV充電の基礎知識
EV CHARGING
EVの安全性は?EV火災の原因とリチウムイオンバッテリーの安全対策
EVの安全性ってどうなの?火災の原因とリチウムイオンバッテリーの安全対策を解説!
近年、海外で散発してるEV(電気自動車)の火災事故。主な原因は、EVに搭載されたリチウムイオンバッテリーだと言われています。では、リチウムイオンバッテリーによる火災はどのようにして起きるのでしょうか?
今回は、EVの火災が起きるメカニズムやメーカー各社の安全対策など、リチウムイオンバッテリーにまつわる気になる疑問を深掘りします。
相次ぐEVの火災
2021年4月、アメリカのテキサス州で、テスラ社のEV「モデルS」が木に衝突して炎上(※1)。同年8月にはオランダでフォルクスワーゲン社の「ID.3」が充電を終えた後に炎上するなど(※2)、世界でEVの火災事故が発生しています。
こうした火災の要因とされているのが、リチウムイオンバッテリーによる熱暴走です。熱暴走とは、バッテリー内部で充放電の際に生まれた熱が制御できなくなる状態のこと。熱暴走による発熱が続くことで発火につながります。
また、リチウムイオンバッテリーは内部に残ったエネルギーを利用して発熱、再燃し続けるため、一度発火すると大火災につながり、消化することが困難になると言われています。そのため、鎮火したように見えても再び熱反応を起こし、数日後に燃え出すということも起こりえます。
リチウムイオンバッテリーが熱暴走に至る要因は、大きく分けて2つあります。1つ目は、正極と負極を分けているセパレーターが衝撃などの要因でショートしてしまい、大きな電流が流れて発熱する「物理的要因」。もう1つが、バッテリーの過充電などによって正極の構造が壊れ、電解液が分解されることで発熱し、物理的要因を引き起こす「電気的要因」です。
バッテリー火災を防ぐための技術
リチウムイオンバッテリーは熱暴走により発火しやすい性質を持っていますが、EVメーカーはこうしたリスクを回避するために日々研究・開発を進め、自社のEVにさまざまな技術を取り入れています。
バッテリー火災を防ぐための技術には、おおまかに2つのアプローチがあります。ひとつは「バッテリーを衝突時の衝撃から守るための技術」。もうひとつが「衝突時に損傷した高電圧ケーブルを切断する技術」です。
前者は火災の原因となるバッテリーのショートそのものを防止する技術で、後者はショートすることで起きる火災やユーザーの感電を防止する技術です。それぞれどのような技術なのか詳しく見てみましょう。
バッテリーを衝突時の衝撃から守るための技術
車両の基礎となるプラットフォーム自体を見直し、バッテリーパックを損傷しにくい位置に変えたり、衝撃からバッテリーパックを守る高強度のボディーを採用したりと、各メーカーが独自の対策を施しています。
衝突時に損傷した高電圧ケーブルを切断する技術
事故が発生した際、衝撃を感知するセンサーによって高電圧回路を物理的に遮断する仕組みを導入し、火災や感電のリスクを減少させます。現在一般的に採用されているのは、小さな爆発によって回路を切断する仕組みです。
日産「リーフ」は火災事故が起きにくい!?
国産EVの代表格とも言える日産「リーフ」。ある記事によるとリーフは発売から10年以上、リチウムイオンバッテリーに起因する火災が発生していないと言われています(※3)。
実際、リーフにはバッテリーパックを守る車体構造や、バッテリーやモーターなどに高電圧部品を採用した絶縁構造、衝突した際に高電圧システムを遮断する構造など、安全のためのさまざまな技術が採用されています。
また、バッテリー故障の原因となる過電圧・過放電・加熱を防止するため、リチウムイオンバッテリーコントローラーと呼ばれるシステムも搭載。このほか、バッテリーに衝撃を与えるさまざまな走行環境をテストすることで、バッテリーの安全性を検証しています(※4)。
3つのポイントで見るEVの安全性
実際のところ、リチウムイオンバッテリーを搭載するEVは、発火しやすく危険な乗り物なのでしょうか?じつは、そんなことはありません。
国連欧州経済委員会(UNECE)は2010年、日本基準をもとにしたEVやHVの国際安全基準を採択。高電圧部分からユーザーを保護する方法を示すとともに、検査方法を標準化するなどしました。その後、国内ではこの国際基準を採用するとともに一部の基準を強化、基適用範囲を拡大しています(※5)。
各メーカーは独自の技術でこうした安全基準に対応しているほか、これまでEVの安全性はさまざまな角度から語られています。ここでは、3つの視点からEVの安全性を見てみましょう。
①EVはガソリン車よりも火災が少ない
EVの火災事故は注目を集めやすいものの、ガソリン車よりも頻繁に火災がおきているわけではありません。アメリカの自動車保険比較サイト『AutoinsuranceEZ.com』が、米国家運輸安全委員会(NTSB)などのデータを利用して行った調査によると、販売台数10万代あたりの国内での火災発生件数はガソリン車が1529.9件、HV(ハイブリッドカー)が3474.5件であるのに対し、EVはわずか25.1件という結果が出ています(※6)。
②EVはガソリン車よりもけがをしにくい
IIHS(米国道路安全保険協会)が発表したレポートによると、同じ車体のEVとガソリン車を比較した際、EVユーザーがけがをする確率はガソリン車よりも40%低いことがわかっているそうです(※7)。その理由についてIIHSは、大きなクランプルゾーンやバッテリーが床下に配置されることによる底重心、ガソリンタンク爆発のリスクがないことなどをあげています。また、同協会が行った最新版の保険分析データによると、「電気自動車オーナーからけがの申告がされる頻度はかなり少ない」というレポートも発表しています。
③運転支援・自動運転とEVは相性がいい
ホンダは、自社のEV「ホンダ e」に安全運転支援システムの「Honda SENSING」を搭載。衝突を予測してブレーキをかけたり適切な距離をあけて前の車を追いかけたりと、事故が起きにくい運転を支援しています。また、トヨタはEVの「MIRAI」などに自動運転レベル2に相当する「Advanced Drive」を装備。高速道路などのハンズフリー運転を実現させました。
こうした例に見られるように、EVと自動運転は相性が良く、各EVメーカーは自社開発の自動運転技術を最新のEVに取り入れることで差別化を図っています。今後EVの自動運転が標準化していけば、火災の原因となる事故そのものが減少し、ユーザーの安全もより守られるでしょう。
取り扱いを確認して安全なEVライフを!
EVは、リチウムイオンバッテリーの感電・発火対策のほか、さまざまな角度から安全性が高い乗り物だと言われています。ただし、一度発火してしまうと鎮火しづらく、大火災につながるおそれがあるため、「高電圧部位に触らない」「充電しながら洗車しない」など、発火の恐れがある行動を避け、適切に取り扱いましょう。また、あらかじめマニュアルを確認し、万が一事故にあった場合は、車両ごとにしかるべき対応をとることで安全を確保してください。正しい乗り方で安全で快適なEVライフを楽しみましょう!
-
【出典】
- (※1)日経クロステック「テスラ『モデルS』、衝突事故で2人死亡 運転席は無人か」(2021年4月20日)
- (※2)中央日報日本語版「VW電気自動車ID.3が火災で全焼…LGがバッテリー供給」(2021年8月23日)
- (※3)MOTA「世界初の量産EVだからこそ失敗は許されなかった! デビュー11年で今なおバッテリー火災ゼロを誇る日産 リーフの技術力」
- (※4)日産リーフ「EVならではの安全性能」
- (※5) 国土交通省「日本の基準をベースに、電気自動車等の安全性に関する国際統一基準が採択されました~国連自動車基準調和世界フォーラムの結果~」
- (※6)AutoinsuranceEZ.com「Gas vs. Electric Car Fires [2022 Findings]」
- (※7)CleanTechnica「Injury Claims From Electric Vehicle Owners 40% Lower Than Identical Non-Electric Models」
※写真はすべてイメージです。
この記事の監修者
宮尾 魁
第1種電気工事士
宮尾 魁
第1種電気工事士
<保有資格>
第1種電気工事士、2級電気工事施工管理技士
<略歴>
電気工事会社で工事業務を担当し数々の大規模プロジェクトに携わり、高い技術と専門知識を習得。組織内の工事プロジェクトの指揮を執る。革新的な技術や効率的なプロジェクト管理を取り入れる手法は業界内での評価も高い。